10.13.2009

「人生のスランプ」よく食って、よく眠って、ただ待っているのです・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 文芸評論家の小林秀雄がある酒の席で、プロ野球・国鉄スワローズの豊田泰光選手(現・野球評論家)に尋ねた。スランプの時はどうするのか? 豊田選手は答えたという。「よく食って、よく眠って、ただ待っているのです」

 小林の随筆「考えるヒント」(文春文庫)の一節だが、憂いに身を包んでの食事と睡眠ほどむずかしいものはない。不名誉ないきさつでの閣僚辞任、落選という人生のスランプにいたその人も不眠に悩んでいたという

 中川昭一元財務相が56歳で急逝した。解剖で循環器系に異常が見つかっている。ときに度を越した飲酒癖も、ぶっきらぼうな語り口も、シャイで内省的な人柄の裏返しであったと、故人を知る人は言う。人一倍の悔恨と憂悶(ゆうもん)に体をむしばまれて命を縮めただろうとは想像がつく

 常に国益を最上位に置き、保守の表街道を歩いた人である。過去の失策も、雌伏の時間も、まだ明日の糧に変えられる年齢であり、スランプを乗り越えた先には自民党の4番打者に座る日もあったことを思うとき、早過ぎるシが惜しまれてならない

 その人の面影に盃(さかずき)をかざし、目を閉じる。

 10月6日 編集手帳 読売新聞
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