上方落語の「雨乞(あまご)い源兵衛」に雨上がりの虹を愛(め)でる場面がある。「尾頭つきの虹じゃ。見てみよれ、地べたから地べたまで架かりよる」と
いささか唐突な連想ながら、米国のオバマ大統領が「核兵器のない世界」を説いたときに脳裏をかすめたのはこの虹である。「核依存」の安全保障という現実の地べたに立ち、「核廃絶」という遠くの地べたに架かる弧を夢想した演説であったろう
作家の長谷川四郎に、「軍艦マーチの歌」という詩がある。「軍艦マーチ」の〈守るも攻むるも黒鉄(くろがね)の/浮かべる城ぞ頼みなる〉をもじり、〈守るも攻むるも原子力/核分裂ぞ頼みなる〉と皮肉った
唯一の被爆国として核兵器を誰よりも憎みつつ、正気とは言いがたい隣人から身を守るには米国の「核の傘」にすがらねばならない。核分裂ぞ「恨みなる」と歌うべき歴史をもちながら、「頼みなる」と歌わざるを得ない日本人ほど、尾頭つきの虹を切実に願う国民はないだろう
きょうの広島原爆忌、今年も犠牲者の霊前には数限りない祈りがささげられる。その一つひとつが、いつの日か美しい弧をなす虹のかけらである。
8月6日付 編集手帳 読売新聞
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