地球を飛び立ち、月面に立つ宇宙基地を科学者が訪問した。基地の行政官には〈宇宙生まれ第一世代〉の子供がいる。8歳ほどに見える少女だが、年を聞けば4歳になったばかりだという
驚く科学者に、父親の行政官が言う。「ここの低重力では子供の成長も早い。それでいて老けるのはおそい。――われわれよりずっと長生きするだろう」と。アーサー・クラークのSF小説「2001年宇宙の旅」(早川書房刊)のひとこまである
理化学研究所と広島大学の共同研究が教えるところではどうやら、その楽しい夢に至る道のりはなかなか遠いらしい
ほぼ無重力状態でマウスの体外受精を試みたところ、子の生まれる割合は通常の4分の1にとどまり、哺乳類(ほにゅうるい)の受精卵が育つには一定の重力が必要なことが分かった。重力の弱い月では子供ができにくいかも知れない
地球を訪ねてみたい? 問われて、宇宙生まれの少女は首を横に振った。「人がたくさんいすぎるわ」と。人込み見物に出かけたような夏休みの行楽を終えたばかりの身にはお説の通りで、こちらのほうは小説そのままに進んでいるようである。
8月26日付 編集手帳 読売新聞
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