8.07.2009

暦の上ではもう秋「立秋」締まりがなくダラダラ感も漂う夏・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 話術の大家で、軽妙な随筆や小説でも知られた徳川夢声は、何気ない描写に独特の観察眼を示した人である。〈空ハ黒キマデニ碧(アオ)ク…〉という表現が終戦の前年、8月某日に綴(つづ)った日記のなかに見える

 快晴のあまり、逆に太陽が照明を絞ったように感じられる青空がたしかに、ひと夏に幾日かはある。物音が途絶えた昼下がり、〈黒キマデニ碧ク〉澄みわたった空の下にヒマワリの花を配せば、これぞ夏の風景だろう

 そういう夏空を今年はまだ見ない。気象庁によれば7月は、降水量の多さと日照時間の少なさで30年に1度の異常気象であったという。8月の埋め合わせを待つうちに今日は「立秋」、暦の上ではもう秋の声を聞く

 衆院の解散から投開票まで40日間というのはこれまでで最も長いが、締まりがなくダラダラ感も漂う選挙模様が空模様に伝染したような気がしないでもない。公示まであと10日ほどある

 〈よきことば生れよと秋立ちにけり〉。本紙「四季」欄でおなじみの俳人、長谷川櫂さんの句にある。せめて候補者たちには真夏の陽光のような、気合あふれる「よきことば」を望むとしよう。

 8月7日付 編集手帳 読売新聞
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