動物が見せる何気ないしぐさは、ときに人の心を打つ。川柳作家、時実(ときざね)新子さんの句がある。〈象が膝(ひざ)折る 涙が湧(わ)いてくる〉。説明は要らないだろう
膝を折らなくても、目がしらの湿ってくるゾウもいる。何日か前の国際面で「パンダゾウ」の写真を見た。タイの古都アユタヤの観光施設で、パンダに似せて白黒に塗られたゾウである
パンダ人気にあやかっての演出らしい。絵の具は無害というが、まあ、人間さまの勘違いだろう。遠く離れた小欄が嘆いてみてもゾウ君の慰めにはならないが、とりあえず溜(た)め息をついておく
きょうも各地の動物園で子供の歓声がゾウたちを包むことだろう。ありのままの姿で、それだけで人は感動するものを。〈パンダゾウの悲哀〉と見出しのついた記事は「ゾウの目は笑っていなかった」と結ばれている
本来の自分を見せればいいものを、場違いな冗談を言っては周囲の空気を冷え込ませてみたり、上機嫌を装っては疲れ果ててみたり、勘違いの“人間パンダゾウ”を演じた気まずい記憶がふと脳裏をかすめぬでもない。何かと気分を落ち込ませてくれる写真ではある。
8月13日付 編集手帳 読売新聞
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