そば、うどん、ラーメンを食べる音はどう違うのだろう。桂枝雀さんは弟子の南光さんと録音機を置き、三つを食べて聞き比べたという
「桂枝雀爆笑コレクション」(ちくま文庫)に演芸研究家の小佐田定雄さんが書いている。音で麺(めん)の区別はつかなかったそうだが、表情も身ぶりも派手な爆笑落語を支えていた飽くなき研究心のしのばれる挿話である
「一生懸命のおしゃべりでございます。よろしくお付き合いを願うのでございます」。高座の語り出しそのままに万事に懸命であった人には、人知れぬ苦しみがあったのだろう。10年前、みずからの手で59年の生涯を閉じた。ほんとうならば今月13日が70歳の誕生日である
夏目漱石は「三四郎」で登場人物の口を借り、「三代目柳家小さんと同時代を生きる幸せ」を語った。枝雀さんも同様の感懐を誘う落語家だが、「同時代を生きた…」と過去形で言わねばならないのが残念でならない
円熟の色つやを重ねた「代書屋」や「宿替え」を、「崇徳院」を聴きたかった――と書けば、往年の名せりふ「どうも、スビバセンね」が天上から聞こえてきそうである。
8月11日付 編集手帳 読売新聞
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