冒険の旅に出た少年たちを一瞬、稲光が照らす。主人公がつぶやく。〈神がわたしの写真をお撮りになった〉。スティーブン・キングの小説「スタンド・バイ・ミー」(新潮社)の一場面である
きのうの夕、東京の職場でテレビの高校野球中継を見ていると、表彰式の場面で空がゴロゴロ鳴り、窓に数えるほどの雨粒が落ちた。見ていて手の汗ばむ決勝戦を終えた両校ナインを称(たた)え、神様が記念に遠くから一枚お撮りになったのかも知れない
敗れたとはいえ九回二死から5点を連取して1点差まで迫った日本文理(新潟)ナインの、力を出しきったすがすがしい笑顔がよかった。耐えに耐えて優勝旗を手にした中京大中京(愛知)ナインの、万感の涙がよかった
準決勝で敗れた花巻東(岩手)の選手たちも忘れがたい。泣くにつけ、笑うにつけ、“仲間”と呼び合える間柄とはこういうことなのだと、嫉妬(しっと)に似たものを感じたことを白状しておく
稲光のストロボ付きカメラを首からさげた高校野球好きの神様も、この甲子園は被写体に恵まれて大忙しだったろう。記憶のアルバムをいっぱいにして、夏がゆく。
8月25日付 編集手帳 読売新聞
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