ときどき、辞書を引き比べて遊ぶ。意味の分かりきった言葉が面白い。例えば「右」――岩波書店の広辞苑には〈南を向いた時、西にあたる方〉とある
三省堂の新明解国語辞典には〈アナログ時計の文字盤に向かった時に、一時から五時までの表示の有る側〉、大修館書店の明鏡国語辞典には〈人体を対称線に沿って二分したとき、心臓のない方〉とある。各社各様、苦心の知恵比べを愉(たの)しんでいる
暇な遊びはどうやらコラム書きだけのようで、ご飯をもりもり食べるように辞書をめくる子供たちもいる。数日前の本紙で「国語じ典でべん強」という小学3年生の詩を読んだ
分からない言葉を国語辞典で調べては、付箋(ふせん)を張る。〈今日一日で16まいはったよ/お兄ちゃんは11まいはった/言葉がわかっておもしろい〉とある。最近は学校でもそういう授業が広まっているそうで、日本語の未来にとって頼もしい限りである
夏休みも、もうすぐ終わる。日に焼けた顔でちょっとむずかしい言葉を口にし、先生を驚かせる子もいるだろう。国語辞典も、「右」に喜ぶおじさんに引かれるよりは、きっとうれしい。
8月21日付 編集手帳 読売新聞
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