8.08.2009

魂をこめた言葉は残る「一語一絵」握りしめたペンを杖に言葉の世界をさまよう・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 夏休みに北海道を訪れる人の何人かは、何十人かは、きっと口にするだろう。〈でっかいどお。北海道〉

 全日空がかつてポスターなどに用いた広告コピーである。作者のコピーライター、眞木準さんは今年6月、60歳で急逝した。作品群に随想の文章を添えた生前の著書「一語一絵」(宣伝会議刊)を故人にゆかりの深い方から頂戴(ちょうだい)し、時折ひらいては言葉の冴(さ)えに酔っている

 たとえばサントリーの〈カンビールの空カンと/破れた恋は/お近くの屑(くず)かごへ〉や〈あんたも発展途上人〉〈飲む時は、ただの人〉、あるいは伊勢丹の〈恋を何年、休んでますか〉や〈恋が着せ、愛が脱がせる〉をご記憶の方もあろう

 コピーは旅である、と眞木さんは書いている。「握りしめたペンを杖(つえ)に言葉の世界をさまよう」のだと。苦心の跡をとどめることなく、わずか数文字、十数文字で人の心を奪う作業ほど、身を削る過酷な旅はあるまい。その早すぎる別れを思うとき、400字を超すコラム書きが字数の不足を言えば罰があたる

 〈でっかいどお…〉は32年前の作品である。人は去りゆくとも、魂をこめた言葉は残る。

 8月8日付 編集手帳 読売新聞
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