「キス&クライ」とは誰の命名だろう。フィギュアスケートのリンク脇、選手とコーチが採点の発表を待つ場所をいう。歓喜のキスと、嗚咽(おえつ)(クライ)の交差点である
「キス」だけの人生はこの世にないとはいえ、まだ少女の面影を残す人の「クライ」を聴くのは、やはりつらいものである
バンクーバー冬季五輪の女子フィギュアで浅田真央選手(19)が堂々の銀メダルに輝いた。それでも、息をのむほど完璧(かんぺき)な演技を見せた韓国の金妍児(キムヨナ)選手(19)に敗れたことがよほど悔しかったのだろう
思い出した歌がある。〈はたちの日よきライバルを君に得て自ら当てし鞭(むち)いたかりき〉。詩人、堀口大学が西条八十の霊前に捧(ささ)げた一首という。「十九の日」ならば、氷上の二人だろう。自分の演技に納得していない――浅田選手は涙で途切れとぎれに語り、自責の痛い鞭をわが身に当てた。金選手もまた、好敵手の顔を脳裏に浮かべて猛練習を積んだだろうことを思うとき、金銀のメダルはともに両者の美しい共作と言えなくもない
あなたには、今日の「クライ」を明日の「キス」に変えられる若さがある。時間がある。
2月27日付 編集手帳 読売新聞
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