3.06.2010

天災に接するたびに、誰もが同じ、ひとつの星に暮らしている・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 琉球諸島にはヤドカリを人間の起源とみなす神話があるという。昔の世を「アマン(=ヤドカリ)ユー」すなわち「ヤドカリの世」と見た。ヤドカリが阿檀(あだん)という木の実を食べて人間に生まれ変わった、と

 榎本好宏さんの『季語語源成り立ち辞典』(平凡社)に教わった知識だが、天災に接するたびにこの神話が胸をよぎる。いかに高度な文明を築いても人間は、地球という名の荒ぶる巻き貝に宿りする寄宿人でしかない

 できることは、科学と情報と経験とを総動員し、家主のもたらす気まぐれな厄災からその都度、難を避けることだけだろう

 きのうはチリ巨大地震による津波の警戒に明け、暮れた。震源は地球の裏側でも津波は押し寄せる。“遠い国”も“近い国”もない。誰もが同じ、ひとつの星に暮らしている――当たり前の事実を、いまさらながら噛(か)みしめた方もあったはずである

 現在のところ、国内で人的被害は出ていないが、チリの被災地を思えば「幸いにも」と言い表す気持ちにはなれない。瓦礫(がれき)の下で、大勢が生シの境にあろう。球形の巻き貝に同居する友に、救いの手を急がねばならない。

 3月1日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge