3.18.2010

ピース「表へ出ろ!」操縦室内で記念撮影を繰り返し・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 いまは亡き落語家の春風亭梅橋さん――というよりも、テレビの人気者だった二つ目時代「柳亭小痴楽」の名前に馴染(なじ)みの深い方も多かろう。その人に、旅客機で空を飛んでいたときの逸話がある

 隣り合った乗客とささいなことで口論になり、梅橋さんは威勢のいい啖呵(たんか)を切った。「表へ出ろ!」。演芸評論家の吉川潮さんが『落語の国芸人帖』(河出書房新社)に書き留めている

 地上の居酒屋と勘違いをする乗客も困りものだが、地上の物見遊山と勘違いをする乗務員よりはまだしも罪がない。スカイマークの副操縦士が飛行中の操縦室内で客室乗務員らと記念撮影を繰り返していた問題で、前原誠司・国土交通相がスカイマークから提出を受けた写真を公表した

 操縦席で機長と客室乗務員が進行方向に背を向け、ポーズをとっている。何が楽しいのか、指を立てて「ピース」である。その何秒間かに不測の事態が生じず、阿鼻(あび)叫喚に至らず、多数の人命が失われなかったのは、ただただ幸運というほかはない

 怖がり屋で飛行機が嫌いだった梅橋さんが見たならば、間違いなしに、「表へ出ろ!」である。

 3月13日付 編集手帳 読売新聞
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