3.10.2010

崩れる音「親は選べない」世の中、歯車がどこか狂っている・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 古典落語『松山鏡』に歌が出てくる。〈子は親に似たるものぞよ 亡き人の恋しきときは鏡をぞ見よ〉。亡き父母に逢(あ)いたいときは鏡をごらん。そこにいるだろう、と

 子供は親に似るものである。薔薇(ばら)の木に薔薇の花が咲くごとく、何の不思議もない。似ているだけで、ただそれだけで、5歳の子がなぜ、親から「シ」を与えられねばならないのだろう

 奈良県桜井市の吉田智樹ちゃんがガシした事件で両親が逮捕された。母親(26)は「夫婦仲が悪く、(子供が)夫に似ているのが憎らしくてギャク待した」、そう供述しているという。父親(35)は見て見ぬふりをしていたらしい。夫婦仲が元に戻れば、「似ててもご飯をやるから生き返って来い」と霊前に告げるのか。俗に「親と上司は選べない」と言うが、その子が哀れでならない

 埼玉県蕨市でも4歳児が衰弱シしている。国文学者の中西進さんによれば、母を形容する古語「たらちね」の「たらち」とは満ち足りた乳、「ね」は確固不動のものに付ける言葉「根」であるという。東で、西で、確固不動のものが崩れる音を聴く

 世の中、歯車がどこか狂っている。

 3月5日付 編集手帳 読売新聞
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