3.16.2010

きらきらと「源実朝」大イチョウが根元から折れ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 歌人の佐佐木幸綱さんに一首がある。〈刺すことの刺さるることのきらきらと輝きながら乱世は誘う〉。「源実朝」と題する連作にある。「きらきらと」は白刃の光だろう

 鎌倉幕府の3代将軍、源実朝は甥(おい)・公(く)暁(ぎょう)の手にかかり、鎌倉の鶴岡八幡宮でコロされた。曲がりなりにも公武対立の緩衝役を務めていた実朝のシにより、幕府との協調に絶望した後鳥羽上皇は倒幕を決意し、時代の歯車は乱世に向かって回転していく

 樹齢800年から1000年以上、暗サツ者が隠れていたとの伝承をもつ境内の大イチョウ(神奈川県指定の天然記念物)が強風のためか、根元から折れ、倒れたという

 〈大海(おおうみ)の磯もとどろに寄する波割れて砕けて裂けて散るかも〉(『金槐和歌集』)。実朝は万葉調の力強い調べの歌を残した歌人としても名高い。あり余る詩才を抱きながら26歳で非命に倒れた貴公子も、時代の暴風に翻弄(ほんろう)された1本のイチョウの木であった、と言えなくもない

 「そういえば遠い昔、かの人も、このようにして…」――樹木にも記憶というものがあるならば、倒れゆく刹那(せつな)、樹肌をよぎる感慨もあったろう。

 3月11日付 編集手帳 読売新聞
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