3.17.2010

名残の雪と会いに「北」へ、サクラ前線を迎えに「南」へ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 地図で見る日本列島は斜めに連なっている。北日本と南日本でもよさそうなものを、東日本と西日本に分けているのはなぜだろう。相撲の番付も東と西、芝居の口上も「とざい、とうざい」、関ヶ原の合戦も東軍・西軍である

 国文学者の池田弥三郎さんによれば〈天子は南面す〉、天子は南を向いて立つのが定位置である――とする古代中国の思想に由来するという。南面する位置から見れば、世の中は右と左(西と東)に分かれて映る、と

 東西に比べて少々なじみの薄い南北だが、習慣に逆らって列島を「北」日本と「南」日本に分けてみたくなる季節があるとすれば今ごろだろう

 一昨日、“北国”青森県八戸市で1日の降雪量としては史上最高の61センチを記録した。同じ日、“南国”高知市では最速タイ記録でサクラの開花が発表されている。〈日本 長き琴のごと…〉とはフランスの詩人クローデルの詩の一節だが、早春の雪と花の便りほど、琴の長さを実感させてくれるものはあるまい

 名残の雪と会いに「北」へ、サクラ前線を迎えに「南」へ、行けもしない旅に胸の内が波立つのも南北の季節である。

 3月12日付 編集手帳 読売新聞
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