3.11.2010

「ありがとう」の励みなくして農家に後継者は育つまい・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 倉本聰さんのドラマシナリオ『北の国から』で主人公・五郎が語る。いまの農家は気の毒だ、と。どんなにうまい作物をつくっても、ありがとうを言ってもらえない。誰が食べているのか分からない

 〈だからな。おいらは小さくやるのさ。ありがとうって言葉の聞こえる範囲でな〉(理論社刊)。NPO「食と農」を主宰する宮崎隆典さんにいただいた講演会の案内状を読みながら、五郎の言葉を思い浮かべている

 「ありがとう」の励みなくして農家に後継者は育つまい。食品の大量廃棄は「ありがとう」の欠如そのものだろう。輸入頼みの低い食料自給率のもとでは「ありがとう」を言うすべもない。農業問題の根は5文字のひらがなに行き着くようである

 今月10日、都内・文京シビック大ホールの講演会では、食文化論で知られる小泉武夫(東京農業大学名誉教授)、赤堀博美(赤堀料理学園校長)両氏が処方箋(しょほうせん)を具体的に語られるという

 明治生まれの歌人に吉植庄亮が(よしうえしょうりょう)いる。〈豊(とよ)葦原瑞穂(あしはらみづほ)の国の国民(くにたみ)に生れて楽しわれは百姓(たづくり)〉。食と農が5文字で結ばれていた昔の、現代人の目にはまぶしい歌である。

 3月6日付 編集手帳 読売新聞
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