5.06.2010

煙を愛する人「無煙たばこ」喫煙場所が年々減っていくなかで・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 女と男の会話から。「返事に困ると、たばこ、すうのね」「『ノオ』の時は、尚更(なおさら)ね」「便利なものなのね、たばこって」「そうでなきゃ、こんなに売れないよ」。向田邦子さんのシナリオ『家族熱』(新潮文庫)の一節である

 世のなかは返事に困る会話、「ノオ」と答えたい場面の連続だろう。たばこを吸わない人からは「甘ったれるな」という声が聞こえそうだが、喫煙場所が年々減っていくなかで愛煙家はイライラを募らせているらしい

 そういう人のために、日本たばこ産業(JT)は今月、煙の出ない「無煙たばこ」をまずは東京で売り出すという

 香りを楽しむ「嗅(か)ぎたばこ」の一種で、周囲の迷惑する受動喫煙の心配はない。禁煙の準備運動として使うこともでき、いいことずくめのようだが、「煙を愛する人」と書く愛煙家の反応には予測がつかない面もある

 映画の名せりふをもじり、著書に「紫煙・カムバック!」と書いたのはエッセイストの阿奈井(あない)文彦さんだが、この新商品を試した人が紫煙に告げる言葉はさて、どちらだろう。〈カムバック!〉でなく〈グッドバイ!〉であることを祈る。

 5月1日付 編集手帳 読売新聞
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