5.28.2010

不快に感じた市民からの苦情「ヒゲの禁止」厚い面の皮を突き抜いて生える・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 スペインの画家、サルバドール・ダリはピンと上を向いた独特のヒゲでも知られた。なぜ、その形に? 旅行家の兼高かおるさんは面会した折に尋ねてみたという

 〈宇宙と交信するアンテナである〉。そう答えたと、本紙連載『時代の証言者』で回想している。おしゃれのつもりが不興を買うことも時にはあり、宇宙はともかくも世間との交信がむずかしいのがヒゲかも知れない

 群馬県伊勢崎市が職員にヒゲの禁止を通達した。不快に感じた市民からの苦情がきっかけだそうで、役所内の規則としてはめずらしいという

 昔は政治家が好んでたくわえたもので、伊藤博文や田中正造、尾崎行雄などの顔がすぐに浮かんでくるが、昨今の永田町ではあまり見かけない。くるくる変わる軽い言葉がわざわいして人気の凋(しぼ)んだ人もたまには、世論との交信用にダリ流のアンテナを立ててみてはいかがだろう

 古いなぞなぞを。「世界で最も硬いもの、なあんだ? 答えは、あなたのヒゲ。びっくりするほど厚い面の皮を突き抜いて生えるから」。毎朝、重労働に耐えている誰かさん愛用のヒゲそり刃に同情を寄せておく。

 5月22日付 編集手帳 読売新聞
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