生まれたばかりの美の女神ヴィーナスを祝福し、西風の神のゼフィロスが薔薇(ばら)の花を吹きかける。15世紀の巨匠ボッティチェリが、「ヴィーナスの誕生」で描いた世界である
ギリシャ神話では、ヴィーナスと同じように美を象徴するアフロディテが誕生した時、薔薇の花が創生されたと言われる。ルネサンス期の名画は、そんな神話に由来する
欧州では当時、中東の薔薇が有名だったらしいが、現在、欧州向けの薔薇の主要輸出国は赤道直下のケニアである。乾期と雨期が明瞭(めいりょう)で、少し冷涼なアフリカのサバンナ気候が栽培に適している
そのケニアが今、最も注目しているのが日本市場だ。外貨獲得の柱と期待し、切り花の輸出を拡大している。しかし、知名度が高くないことが悩みという
薔薇を天井から吊(つる)し、その下での話は秘密にしたローマ時代の逸話が残る。「薔薇の下で」が「秘密に」という意味にもなった。日本がODA(政府開発援助)で支援してきたケニアが、花ビジネスで自立できれば、日本の貢献にも花が咲くことだろう。ケニア産の薔薇の魅力を「薔薇の下で」とは言わせたくない。
5月17日付 編集手帳 読売新聞
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