5.22.2010

汗と愛情をもって成した王国が土台から崩れていくような焦燥の中に・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 歌人の岡野弘彦さんが一昨年、本紙に寄せた新春詠の一首がある。〈すさのをも大国主も 常(つね)わかく をとめを恋ひて 国成しにけり〉。神話の主人公ではないが、「常わかく」「国成しにけり」はその牛にもあてはまる。思えば、ここも神話のふるさとである

 人間の年齢にすれば80歳を超えるまで現役の種牛として働き、最高品質の子牛ばかり約22万頭を生み出した。名を「安平(やすひら)」という。宮崎県をブランド牛の王国に押し上げた立役者である

 21歳、人間ならば100歳ほどの高齢となった今は現役を退き、のんびり草を食(は)む静かな余生を送っていた。その“伝説の種牛”もサツ処分されるという。家畜の伝染病、口蹄疫(こうていえき)が宮崎県で猛威を振るっている

 県内でサツ処分される家畜は8万5000頭におよぶ。5年ごとに催される和牛のオリンピック「全国和牛能力共進会」で3年前には、9部門中7部門で首席を獲得した宮崎牛である。畜産農家の人々は、汗と愛情をもって成した王国が土台から崩れていくような焦燥の中にいよう

 県が、政府がシに物狂いで疫病を封じ込めねば、農家の流した涙が報われない。

 5月18日付 編集手帳 読売新聞
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