5.17.2010

たとえ何であれ、褒められて“褒めあげ商法”胸に留めておきたい注意書き・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 浄瑠璃の女師匠が弟子を褒める。あんさん、お声がよろしいなあ。「おらあ、声だ」。悪声の弟子は節回しを褒める。「おらあ、節だ」。声も節も良くない弟子は語りの妙を褒める。「おらあ、語りだ」

 どれもこれも駄目な弟子は、長いこと座っていてしびれない足を褒める。「おらあ、足だ」。上方落語『猫の忠信』である。浄瑠璃の稽古(けいこ)で足を自慢する人もなかろうが、たとえ何であれ、褒められて悪い気はしない

 才能が認められて胸が弾む、そうした心理につけ込む不届き者もいる。“褒めあげ商法”というらしい

 「見事な作品ですね」。短歌や俳句、絵画などを趣味にする高齢者に電話をかけて褒めちぎり、書籍に掲載するよう勧誘する。承諾すると、後日、多額の掲載料を請求してくる手口が多い。狙い撃ちされたのか、承諾約20件、計400万円もの支払いを求められた人もいるという

 〈役者コロすにゃ刃物は要らぬ、ものの三度も褒めりゃいい〉。俳優がちやほやされて芸が落ちるのを戒めたのは劇作家の菊田一夫だが、〈蓄え枯らすにゃ…〉と読み替えて、胸に留めておきたい注意書きである。

 5月12日付 編集手帳 読売新聞
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