5.30.2010

技術で勝っても、事業で負ける「殿さまの茶わん」使いやすくて、しかも安い・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 喜んで使ってもらえる製品を作るため、大切なこととは何か。小川未明の童話「殿さまの茶わん」は、作る人の「しんせつ心」だと説く

 薄くて上品な茶わんを焼く腕利きの陶器師が、殿さまの茶わん作りを命じられ、透き通るほど薄い高級品を納めた。後日、殿さまに呼ばれた陶器師は、おほめの言葉を期待したが、用件は苦情だった

 薄いため、持つ手が熱くてかなわないという。「いくら上手に焼いても、しんせつ心がないと、なんの役にもたたない」と諭され、陶器師はありふれた厚手の茶わんを作る普通の職人になった

 経済産業省がまとめた「産業構造ビジョン」は、日本企業の課題として「技術で勝っても、事業で負ける」ことを挙げた。日本製品は性能はいいが、あれもこれも機能をつけて価格が高い。得意だった薄型テレビも、割安な韓国製などに押されている

 人口の減少で、これから日本の消費市場は小さくなる。かわりに、商品を買ってくれそうなのは、アジアの中流層の人々だ。使いやすくて、しかも安い…彼らが求めているのは、そんな厚手の茶わんのような日本製品なのかもしれない。

 5月24日付 編集手帳 読売新聞
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