2.02.2010

「トラスト・ミー」口走った直後に取り消しても遅すぎる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 あわて者の女房が道で伊勢屋のお内儀(かみ)さんに出会い、「旦那(だんな)さまは、おかわりなく…」と言いかけて、伊勢屋の主人が3か月前にシんだことに気づき、「お亡くなりになったまんまでござんすか?」。江戸の小(こ)咄(ばなし)にある

 失言は誰にもある。普通はこの女房のように口走った瞬間、「まずい!」と悟るものである。一夜明けてようやく悟るのは、よほど言葉に鈍感な人だろう

 鳩山首相はきのう、“小沢資金”疑惑の石川知裕容疑者(民主党衆院議員)について「起訴されないことを望む」と語った前夜の発言を、不適切と認め、撤回した

 検察のトップ、検事総長の任免権は内閣にある。内閣の長たる首相の〈不起訴祈願〉は、捜査への介入とみなされても仕方がない。口走った直後に取り消しても遅すぎるほどの重い失言である。検察当局を批判する小沢一郎幹事長に告げた「闘ってください」。普天間問題でオバマ米大統領に告げた意味不明の「トラスト・ミー」(私を信じて)。ため息も、3度目になる

 小咄に出てくるあわて者の女房が、にわかに見識のある常識人に思えてくるから、困った政権である。

 1月23日付 編集手帳 読売新聞
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