2.05.2010

世界市場への拡大路線、品質神話が揺らぎ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 明らかに日本車とは趣の違うトラックの荷台に、「TOYOTA」と赤い字が大きく書いてある。拙(つたな)いロゴで、“O”の字などは四角い。よく見ると、自国メーカーの武骨な車体に赤いビニールテープを張っているのだった

 十数年も前のことだが、海外取材の折にそんな“偽ブランド車”を一度ならず目撃した。それを当時、トヨタ自動車の会長だった豊田章一郎さんに話した覚えがある

 この車がトヨタだったらな…という運転手の声が聞こえるようで日本人としては誇らしかったですよ、と伝えると、ご本人は困ったような嬉(うれ)しいような面持ちで笑っていた。トヨタ車の品質神話が世界中に浸透してから、すでに久しい

 それが揺らぎそうな事態である。アクセルペダルの不具合などで、トヨタ自動車は米国を中心に数百万台規模の回収を決め、あす1日からは北米工場で対象車種の生産を一時停止する

 問題の部品は設計から海外メーカーにまかせ、トヨタ流の厳しい品質管理が十分に及ばなかったらしい。世界市場への拡大路線のアクセルが少々過ぎたか。見直すべきはペダルだけではないかもしれない。

 1月31日付 編集手帳 読売新聞
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