2.09.2010

「一門の意思」良き伝統は崩れるに任せ、改めるべき旧弊を大事にする・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 昔の白粉(おしろい)には鉛が含まれており、希代の名優とうたわれた五代目中村歌右衛門は身を鉛毒に侵されつつ、芸に精進したという。偉大な先人がそうだったからといって、今、鉛入りの白粉を好んで使う役者はいない

 人気の絶頂期、歌右衛門が入った風呂の湯は竹筒に入れて売られたと伝えられる。いかに人気が高かろうとも、今、あまり衛生的とは言いかねる同種のグッズを売りに出す役者はいない

 「伝統を守る」とは古人の精神と、歳月に磨かれた様式美を受け継ぐことであり、無批判に旧習を温存することを意味しないのは当然だろう。相撲の社会はつくづく不可解である

 日本相撲協会の理事選で一門の意思に反する候補に票を投じた安治川親方(元幕内・光法)に、退職する、しないの騒動が起きた。おのが自由意思を1票に託したことで職が危うくなる、そんな恐怖国家のような選挙がこの広い世の中のどこにある

 横綱のガッツポーズには厳しい処分を下さず、「抑制の美学」という良き伝統は崩れるに任せ、改めるべき旧弊を大事にする。非常識という名の鉛毒に侵されているように思えてならない。

 2月4日付 編集手帳 読売新聞
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