2.22.2010

凋む…凌ぐ…凄い…「にすい」の変転・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 氷を光にかざすと、なかに筋が見える。漢字の部首「にすい」はこの筋をかたどったものという。テレビ桟敷で「にすい」の漢字を声に出した方もあったろう。〈凄(すご)い〉と

 冬季五輪バンクーバー大会、スピードスケートの男子500メートルで、長島圭一郎選手(27)が銀メダルを、加藤条治選手(25)が銅メダルを、それぞれ手にした

 長島選手は競技者の出世街道を歩いてきた人ではない。無名選手として過ごし、大学卒業のときは実業団チームから誘いはなかった。4年前のトリノ五輪では13位に終わり、屈辱の涙を流してもいる

 心が凋(しぼ)む日もあったろう。凋む…凌(しの)ぐ…凄い…「にすい」の変転あればこそ、感激はひとしおに違いない。〈凛(りん)〉も同じ部首である。〈鈴あらば/鈴鳴らせ/りん凛と〉とは辻井喬さんの詩『新年の手紙』の一節だが、銀の鈴、銅の鈴のうれしい合奏に、しばし聴き入るとしよう

 胸に描いたメダルとは色が違ったのだろう。競技を終えた二人の談話には悔しさもにじんでいた。ともにまだ20代、「金の鈴」への思いは他日に残すのもいい。夢に続編があるのも、若き競技者の特権である。

 2月17日付 編集手帳 読売新聞
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