評論家の野口武彦さんは「恋愛」を次のように定義したという。〈より多く愛した側が敗北する男女の性的葛藤(かっとう)である〉。小谷野敦さんの「〈男の恋〉の文学史」(朝日選書)からの孫引きである
経営統合の交渉は、〈より多く愛した側が敗北する企業同士の経済的葛藤である〉と、定義できるかも知れない。業績で劣勢に立つ企業の側は、是が非でも統合を実現しなくてはならず、厳しい条件を受け入れてでも交渉をまとめようとするだろう
厄介なのはどちらも優良企業で、良縁は引く手あまた、相手を愛する度合いも一緒、交渉で敗北して無理難題をのむなんて「冗談じゃないわ」という強気同士の場合である。キリンとサントリーの統合交渉が決裂した
組織力を誇る三菱グループの一員で手堅い経営のキリンと、株式の約9割を創業者一族が握る独特の経営手法で知られるサントリーと、企業文化の壁を越えられなかったという。内需を食い合うのではなく、世界市場に打って出る戦略を共有した“理想のカップル”とも評された
実るも、散るも縁のものとはいえ、さみしさの残る恋の終わりである。
2月10日付 編集手帳 読売新聞
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