2.07.2010

一門の意思・慣例破りの貴乃花親方当選、ほどの良い緊張感・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 向田邦子さんのシナリオ『冬の運動会』に“出刃(でば)納豆”の話が出てくる。藁苞(わらづと)に出刃包丁を突き刺して作る納豆のことという

 テレビでは大滝秀治さんの演じた靴職人が、団欒(だんらん)の食卓で語る。〈出刃つき刺す。納豆の奴(やつ)、びっくりして汗かくんだよ。納豆に一番大事なのは水分だろ。水気がなきゃ、糸ひかないもの。な! これ、名づけて『山形の出刃納豆』〉(岩波現代文庫「向田邦子シナリオ集4」)

 賞味したことはないが、冷や汗にも効用があるらしい。なにやら、人の組織に緊張感を取り戻す方策を暗示しているようでもある

 一門の意思で決められてきた日本相撲協会の理事選挙で、一門を離脱して出馬した貴乃花親方が当選した。監督指導の糸引きが悪く、薬物事件に暴力事件と相次ぐ不祥事で不出来な納豆をこしらえてきた協会に、慣例破りの出刃はほどの良い緊張感をもたらすだろう。横綱朝青龍の暴行問題にどう対処するかで早速、冷や汗の効能が試される

 渦中の横綱は節分の豆まき行事を辞退するという。相撲界の藁苞にとどまれるか、自身が瀬戸際の豆、「福は内」の心境ではあるまい。

 2月2日付 編集手帳 読売新聞
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