2.26.2010

男子悲願のメダル「道」お楽しみはこれから・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 綱渡り芸人の男が、やはり旅芸人のヒロインに語る。〈どんなものでも、何かの役に立つんだ。たとえば、この小石だって役に立っている。空の星だって、そうだ。君もそうなんだ〉

 イタリア映画の名作、フェリーニ監督『道』の一場面である。映画の名せりふを集めた和田誠さんの『お楽しみはこれからだ』(文芸春秋刊)から引いた

 右ひざのじん帯断裂、手術、リハビリ…険しい山坂も彼には、競技者の精神を磨く砥石として役に立ったのかも知れない。バンクーバー冬季五輪フィギュアスケートで『道』の音楽に乗せ、高橋大輔選手(23)が男子悲願の「銅」に輝いた

 織田信成選手(22)の姿に、胸を打たれた人も多かったはずである。演技の途中で靴ひもが切れ、おそらくは泣き出したかったろうに、持ち味のコミカルな動きを最後まで演じきった。励ましの拍手の中で演技を終え、「ありがとうございます」、唇の形がそう動いたのを忘れない

 何のいたずらか、4年前、銀盤の神様が靴ひもにぶつけた「小石」のおかげで今がある――何色かのメダルを胸に、そう語ってくれる日がくると信じている。

 2月20日付 編集手帳 読売新聞
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