呼べば応える「こだま」は漢字で「谺」とも「木霊」とも書く。梅の木が冬に耐えて花を咲かせるこの季節には、「木霊」の表記が似合うようである
スポーツ観戦の楽しみは、木霊を聴くことにあるのかも知れない。故障を克服し、あるいはスランプを乗り越えて大舞台に臨んだ選手を「頑張れ、負けるな」と応援しているうち、自分が選手から同じ言葉で声援を送られていることに気づく。励ましたつもりが、励まされている
テレビが中継する“街頭の声”でよく耳にする「元気をもらった」「勇気をもらった」という言い回しも、木霊をその人なりに受け止めた言葉だろう。冬季五輪バンクーバー大会がきょう、開幕する
若木がいる。スピードスケートの15歳、高木美帆選手はリンゴのような頬(ほお)にニキビの跡も初々しい中学3年生である。ジャンプの6大会連続・葛西紀明選手37歳、スピードスケートの5大会連続・岡崎朋美選手38歳のように、年輪を重ねた幹もいる
木霊を反響させてくれるだろう日本選手団という樹林の、ほぼ全員に声援を送るつもりでいる。あえて「ほぼ」とした理由は言わない。
2月13日付 編集手帳 読売新聞
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