1.31.2010

煮詰まってます「火中の栗」移設を容認していた市民が反対へと転じた・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 作者は教師だろう。俵万智さんの「花咲くうた」(中公文庫)から一首をひく。「勉強が煮詰まつてますと泣く子あり まづ〈煮詰まる〉を辞書に引け君」(寺井淳)

 議論が出尽くして論点が整理され、問題が解決に近づくことを「煮詰まる」という。別に、鍋が煮えすぎて水分が蒸発してしまうことも意味する。この生徒は八方ふさがりの脳ミソを煮えすぎた鍋にたとえたのだろう

 外交の懸案が煮詰まりつつある。どちらの意味かは言うまでもない。沖縄県名護市長選挙で、普天間飛行場の移設受け入れに反対する新人候補が当選した

 もとは移設を容認していた市民の心を拒絶へと転じさせたのは、ほかに移設先がいくらでもあるかのごとく装った鳩山首相の発言である。「それならば我が町が火中の栗を拾わずとも…」と、市民は思っただろう。名護市に移設する日米合意案の実現はいよいよ困難の度を増し、さりとて名護市に代わる移設候補地はいまのところ皆無である

 決着期限まで残り4か月、袋小路に出口をどう見つけるのだろう。外交が煮詰まってますと泣く首相あり――では、歌にもならない。

 1月26日付 編集手帳 読売新聞
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1.30.2010

常用漢字表の改定「碍」の扱い、「障がい者」よりはいい・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 行く手を石に遮られた人が、立ち止まって思案する。障ガイを意味する漢字「礙(がい)」は、そんな場面を示している。その俗字が「碍(がい)」だ

 常用漢字表の改定を検討する文化審議会の委員会で「碍」の扱いが一つの焦点となっている。「障ガイ者」と表記すると負の印象が強い。中立的イメージの「碍」を常用漢字に加えて「障碍者」と表記できるようにすべきだ――。そんな意見が委員会に数多く寄せられている

 戦前は「障ガイ」「障碍」「障礙」の三つの表記が併用されていた。「障碍物競走」と記された運動会のプログラムをご記憶の年配の方もおられることだろう。もっとも、「障ガイ者」という言葉が定着するのは戦後になってからだ

 平仮名で「障がい者」とすべきだという意見もある。文化審議会とは別に、政府は「障ガイ」の法令上の表記のあり方について検討を始めた

 「碍」と言えば「融通無碍(むげ)」や「碍子(がいし)」などの言葉も思い起こされる。「障ガイ者」の表記の選択の幅を広げる意味で、まずは「碍」を常用漢字に加えたとしても、違和感を抱く人はあまりいないだろう。少なくとも「障がい者」よりはいい。

 1月25日付 編集手帳 読売新聞
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1.29.2010

歴史は繰り返す、弟子は師が刻んだ轍をどこまでたどるのだろう・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 〈幹事長の強力なリーダーシップで、300議席という奇跡的な大勝利を得た。その選挙で当選した新人は「雨後のたけのこ議員」などと呼ばれたが、派閥の勉強会で教育されて立派に成長した…〉

 30年前の小沢一郎後援会・陸山会発行の書物にそう記述されている。小沢氏の父で建設相などを務めた佐重喜(さえき)氏十三回忌の追悼本だ。紹介したくだりは後継ぎの「政治家小沢一郎への期待」と題した章にあった

 文中の幹事長とは田中角栄氏であり、薫陶を受けた昭和44年初当選組のホープが小沢氏というわけだ。その若手が今は、やはり幹事長として300超の議席を持つ与党を差配し、チルドレンと呼ばれる新人議員を大勢、配下に置いている

 歴史は繰り返す、ということか。否、弟子が師の背中を極めて忠実に追いかけ、その位置まで見事にたどり着いたとみるべきだろう。問題はここから先だ

 東京地検特捜部が、政治資金に疑惑ありとして小沢氏を事情聴取した。疑いが深まるか晴れるか、予測はできぬ。ただ、この弟子は師が刻んだ轍(わだち)をどこまでたどるのだろう、と固唾(かたず)を呑(の)んで見守るのみである。

 1月24日付 編集手帳 読売新聞
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1.26.2010

「くさい、くさい」においのもとを確認する・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 胎児を包む膜を「胞衣(えな)」という。昔、地方によっては子供が生まれると、胞衣を土に埋め、地面を父親が踏んだ。最初に踏んだ者をその子は一生怖がると信じられ、親の威厳を保つ儀式であったらしい

 「親が踏む前にクモがシューと通ったんでんな」。落語『こぶ弁慶』に、クモ恐怖症の男をそう語るくだりがある。民主党政権の胞衣を最初にシューと踏んで通ったのは政権交代の立役者、小沢一郎幹事長だろう。とはいえ、怖がるにもほどがある

 民主党が“小沢資金”疑惑の検察捜査に圧力を強め、その一端は報道にも向けられている。怖さ余って、忠誠心の売り込み競争か…と、笑ってもいられない

 においのもとを確認するのが異臭騒ぎの鉄則であり、常識である。検察の鼻を洗濯バサミでつまんでしまえ。「くさい、くさい」と騒がしいメディアの口にサルグツワを噛(か)ましてしまえ――とは、異様かつ異常である

 胞衣を埋め直し、民主党を信じて一票を投じた有権者に踏み直してもらうのがいいだろう。恐れるのならば、有権者を恐れよ。洗濯バサミとサルグツワの政治は北朝鮮だけでたくさんである。

 1月21日付 編集手帳 読売新聞
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1.25.2010

閉めた扉のなかで改めなくてはいけないことは幾つもある・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 漢字ひとつのなかにも詩想は浮かぶものらしい。〈涙 ながすときには/ひっそりと 戸をしめて/でも/ながした 涙のぶんだけ/戸のなかで/大きな人になって/戻っておいで〉

 杉本深由起さんのちょっと風変わりな詩集『漢字のかんじ』(銀の鈴社)を読んでいて見つけた「涙」と題する詩である。なるほど、サンズイに戻ると書いて〈涙〉、〈戻〉のなかには〈戸〉と〈大〉が含まれている

 実らぬ恋であったり、苦い悔恨であったり、人の世の薄情であったり、ひっそり部屋にこもり、ひとり涙した経験は誰にもあろう

 人に限ったことでもない。かつて“日本の空”の代名詞であった企業が涙のときを迎えている。日本航空が東京地裁に会社更生法の適用を申請した。いわば倒産であり、一からの出直しになる。危機感の乏しい「親方日の丸」体質、小回りの利かない肥満体形、複雑な労使関係…と、閉めた扉のなかで改めなくてはいけないことは幾つもある

 3年以内の再建を目指すという。贅肉(ぜいにく)をすっきり削(そ)ぎ落とし、安全で、安心で、流した涙のぶんだけ素敵(すてき)な笑顔の翼となって戻っておいで。

 1月20日付 編集手帳 読売新聞
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1.24.2010

あなたと同じように、私も黙っていた「国民の声」を金看板にする党・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 恐怖政治を敷いたソ連の独裁者スターリンがシ去し、党大会が開かれた。フルシチョフ第1書記が生前の専横を列挙し、スターリンを厳しく批判した。演説のさなか、会場から声が上がった。「その時、あなたは何をしていたのか」

 壇上のフルシチョフは「いま発言したのは誰か。挙手を願いたい」と切り返した。手を挙げる者がいないのを見て、つづけた。「いまのあなたと同じように、私も黙っていた」(川崎浹(とおる)著『ロシアのユーモア』から)

 手を挙げ、名前を名乗り、疑問をただし、異論を唱える。その自由あっての民主主義だろう

 きのうの民主党代議士会は、小沢一郎幹事長の“4億円疑惑”に沈黙のまま閉会したという。各紙の世論調査で支持率は急落し、幹事長辞任を求める声は7割前後にものぼる。何も、糾弾せよ、というのではない。疑問の提起でいい。説明の要求でもいい。「国民の声」を金看板にする党が、沈黙はないだろう

 〈2010年1月の党大会で、代議士会で、あなたは何をしていましたか…〉。民主党所属の国会議員一人ひとりが、いつかそう問われる日が来るかもしれない。

 1月19日付 編集手帳 読売新聞
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1.23.2010

平和で不思議な国、ニッポン、ありふれた悲劇に過ぎない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 「昔は指導者批判さえしなければ、身は安全だった。今は誰にコロされるか分からない」と、その内務省職員は言った。1年前、イラクのバグダッドを訪ねたときのこと

 フセイン政権時代に抑圧されたシーア派イスラム教徒と、新政権から排除されたスンニ派との抗争で、彼は弟と叔父をコロされた。全世帯の4割が家族のだれかを失ったと言われるバグダッドでは、それはありふれた悲劇に過ぎない

 今から20年前、東西冷戦が終わった。だが、平和が到来するとの期待は裏切られ、人類は幾多の紛争や虐サツを目にしなければならなかった。ユーゴスラビアの解体と内戦、ルワンダの大虐サツ、そして、イラク戦争後の宗派間抗争……

 その20年の間に育った日本の若者が先日、大人の仲間入りをした。「目立ちたい」などというわけの分からぬ理由で、成人式で暴れる新成人の映像が、今年も茶の間に流れた

 街の本屋には今、定年後の生き方を指南する本があふれている。世界には、ヒン困やエイズが原因で、平均寿命が40歳代の国がまだまだある。平和で不思議な国だな、ニッポンは。そう思わずにはいられない。

 1月18日付 編集手帳 読売新聞
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1.22.2010

大震災を記憶している最後の世代として、経験をしっかり伝えたい・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 〈大地震(おおない)に母に抱かれ転びたり記憶はじまる大正十二年〉。昨年編まれた平成万葉集にある88歳女性の一首。関東大震災の大正十二年を、平成七年と詠み替えることもできる。うなずいているのは今年成人式を迎えたくらいの若者だろう

 うれしいことや楽しいこと、思い出に残る出来事はたくさんあったと思うのに、大震災の怖く、つらい体験ばかりが幼少期の記憶に刻みこまれている。そんな人も少なくないはずだ

 兵庫県芦屋市の成人式に幼い女の子の写真を手にしたグループがいたと大阪本社版の記事にあった。同じ幼稚園に通った幼なじみたちが、阪神大震災で亡くなった同級生の遺影を携えて出席したという。5歳の園児の写真とそれを抱く女性の振り袖姿に時の流れを見る

 「被害を記憶している最後の世代として、経験をしっかり伝えたい」。神戸市の成人式ではそんな言葉も聞こえたそうだ。大学のサークルなどで、震災の体験を聞き集めて防災に生かそうと活動する人もいる。怖さと寒さに震えていただろう幼子たちが、語り継ぎの主役となっていく

 合掌しつつ、15回目の「あの日」を迎えた。

 1月17日付 編集手帳 読売新聞
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1.21.2010

トム・ソーヤーをもじった筆名「双葉十三郎」さんの道案内で、銀幕の森を散策・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 双葉は「ソーヨー」、十三は「トミー」、トム・ソーヤーをもじった筆名という。見た映画は2万本以上、映画評論家の双葉十三郎(ふたばじゅうざぶろう)さんが99歳で亡くなった

 東大を卒業して住友本社に勤めていた双葉さんが、筆一本に身を任せたのは終戦の年である。少年の昔からあこがれていた映画の道とはいえ、当時30代半ば、夢を追うよりも生活の安定に心が傾く年齢を迎えた人に、国の行く末も知れぬ混乱のなかでの転身は決断を要しただろう

 マーク・トウェイン描くところの冒険心あふれる少年の名を、筆名に借りた心境が分かる気がする

 未見の古い映画がテレビで放送されるとき、双葉さんの著書を繰って録画するかどうかを決めている――作家の逢坂剛さんが以前、本紙の書評欄でそう語っている。「双葉さんの採点は、まず間違いがない」と。その人の確かな道案内で、銀幕の森を散策した人は多いことだろう

 「そろそろお迎えが来そうだから、〈草葉十三郎〉に改名しようと思っているんです」と冗談を語りつつ、次々と新著を世に送り、生涯を現役で通した。トム・ソーヤーを貫いた、見事な人生である。

 1月16日付 編集手帳 読売新聞
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1.20.2010

他国の人々「地方政治」永住外国人に地方選挙権・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 叛徒(はんと)を征討する官軍の大将が朝廷から賜った旗を「錦の御旗」という。転じて現在は、自分の主張などを権威づけるもの、の意味で用いられる

 民主党の山岡賢次・国会対策委員長が在日本大韓民国民団(韓国民団)の新年会であいさつしたなかに、この言葉が出てきた。永住外国人に地方選挙権を与える法案に触れ、「今国会で実現するように錦の御旗として取り組んでいく」と語っている

 意味の取りにくい物言いだが、衆院選で圧勝した事実を「錦の御旗」にたとえたようである。この御旗で反対派を征伐しますので、ご期待くださいませ――ということだろう

 憲法15条は、公務員の選定・罷免は国民固有の権利と規定している。衆院選に大勝して憲法の条文まで蹴(け)散らせる「錦の御旗」を手に入れたと考えるのは、おごれる者の幻想である。島根県の「竹島」条例を挙げるまでもなく、地方政治が領土や基地など国益に深くかかわる事柄も扱うことを忘れてはなるまい

 他国の人々に「温良」であることと、自国民の利益に鈍感な「能天気」であることの区別がつかないとすれば、困った“官軍”である。

 1月15日付 編集手帳 読売新聞
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1.19.2010

世間への威嚇「真相」自分を巨大に見せようとする蛙・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 初めて牛を見た子供の蛙(かえる)が家に戻り、母親にその巨大さを告げた。母蛙は「そいつは、このくらい大きかったかい」と、腹を膨らます。「いや、もっと」「ならば、このくらいかい」「いや、もっと」

 民主党幹事長、小沢一郎氏の言動は寓話(ぐうわ)の母蛙を連想させる。議員を大挙率いての訪中といい、超特大の新年会といい、人を小ばかにしたような記者会見といい、なぜ、そんなに自分を巨大に見せようとするのだろう

 隠れもない政界の最高実力者、存在感を誇示する必要などはあるまいに。憶測で物を言うのが許されるならば、答えは一つ浮かぶ。自身の資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡る出所不明の4億円について、「これほど巨大な俺に疑惑の目を向ける度胸をお持ちかい?」という世間への威嚇としか思えない

 “小沢資金”に、東京地検特捜部による強制捜査の手が入った。「牛」は世間であり、有権者であり、常識であり、法である。牛よりも大きな蛙はいない

 衆院選で民主党に一票を投じた人々も真相が知りたいはずである。腹を膨らませての威嚇はほどほどにして、率直に語るべきだろう。

 1月14日付 編集手帳 読売新聞
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1.17.2010

再建の夢、今日の夢 明日へとになうつばさ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 谷川俊太郎さんが詞を書き、芥川也寸志さんが曲をつけた『日航マーチ』という歌がある。その一節に、〈星を背に 北極の上を/安らかな眠りをのせながら/ジェットは うかぶ…〉とある

 歌が作られたのは東京オリンピックの前年1963年(昭和38年)という。スピードが美徳とされた高度成長下にあって「飛ぶ」や「翔(かけ)る」ではなく、乗客をそっと両の手で包むかのような〈うかぶ〉が印象的である

 ジャーナリストの弓狩匡純(ゆがりまさずみ)さんは著書『社歌』(文芸春秋刊)に書いている。「大量輸送時代の到来により、スピードとともに安全性がより一層求められることを(谷川さんは)まるで予見していたかのよう」であると

 日本航空の経営再建をめぐる協議がいよいよ大詰めを迎えている。社内には不安と動揺もあるに違いない。そういうときであればこそ、運航に携わる一人ひとりに、〈うかぶ〉の一語にこめられた乗客の祈りを、もう一度、胸に刻み直してもらおう

 歌詞には、こうもある。〈今日の夢 明日へとになうつばさ 日本航空〉。翼の安全が保たれずして、再建の夢が実を結ぶ明日は来ない。

 1月13日付 編集手帳 読売新聞
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1.16.2010

験を担ぐ人がにわかに増えてくる受験シーズン季節・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 商家の主人が奉公人を呼ぶとき、普通は手のひらを下に向けて動かす。米の値が上がるのを願う大阪・堂島の米相場師は、下に振る動作を嫌い、手のひらを上にして「おいでおいで」をした。〈堂島のすくい呼び〉という

 堂島の商人ほどではないにせよ、験を担ぐ人がにわかに増えてくる季節である。受験シーズンが本番を迎え、週末には大学入試センター試験も控えている

 受験のお守りが話題になるのもこの時期で、今年はタコの記事を読んだ。三重県鳥羽市の水族館に合格祈願のタコ神社が登場したという。英語の「オクトパス」に「置くとパス」を掛けた洒落(しゃれ)らしい

 英単語や数式や年号の詰まった頭を言葉遊びがほぐしてくれるならば、それも御利益だろう。一年で最も冷え込む「寒の内」、試験会場に向かう足を乱しかねない天候の心配に加えて今年は、新型インフルという敵もいる。誰もが両手で春を“すくい呼び”したい心境に違いない

 なかには熱のある頭を水枕に載せ、布団のなかで手のひらを下に向けて「下がれ、下がれ」と念じている風邪ひきの受験生もいるだろう。大丈夫、時間はある。

 1月12日付 編集手帳 読売新聞
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1.15.2010

ぜにのないやつぁ 俺んとこへ来い 俺もないけど 心配すんな・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 〈ぜにのないやつぁ 俺んとこへ来い/俺もないけど 心配すんな〉。政府が先日まとめた経済成長戦略を読んでいたら、植木等さんが歌った「だまって俺について来い」(青島幸男作詞)を思い出した

 環境や省エネなど日本が得意な分野を伸ばせば、平均で名目3%を超える経済成長ができるというのだ。1991年度の後は一度も達成していない3%成長を、ポンと目標に掲げた唐突さが、楽観的な無責任男のイメージに重なった

 成長するから〈心配すんな〉と胸をたたかれても、現状を見ると首をかしげたくなる。デフレで企業の業績は厳しく、サラリーマンの給料は減り続けている。不景気で税収が落ち、国の借金は急増した

 歌は〈みろよ 青い空 白い雲/そのうちなんとかなるだろう〉と続き、植木さんは明るく笑い飛ばす

 政府は戦略に必要な予算や実施の手順などの具体策を今年6月にも示すというが、歌のような出たとこ勝負の内容だったら、「平成無責任政権」と呼ばれても仕方ない。戦略実現を裏付ける中身が伴わねば、「だまって俺に…」と言われて、ノコノコついて行く者はいない。

 1月11日付 編集手帳 読売新聞
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1.13.2010

桜井茶臼山古墳、謎が棲む古墳のなかの割れ鏡・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 俳人、中村苑子さんに鏡を詠んだ句がある。〈貌(かお)が棲(す)む芒(すすき)の中の捨て鏡〉(第一句集『水妖詞館(すいようしかん)』より)。心に浮かんだ幻影にしても鬼気迫る情景で、ちょっと怖い

 落語などでは、鏡に向かって一心に化粧する女房を亭主が「忍術使いみたいな目ェして」とからかうが、女性がときに激情を、ときに悲嘆をこめて見つめただろう鏡には、「貌が棲む」気配が漂っても不思議ではない

 もしや、神秘のベールに包まれたあの女性の“貌”が、ちらりとでも棲んではいまいか――と、鏡の写真に目を凝らしてみる。大和王権初期の大王墓とされる奈良県桜井市の桜井茶臼山古墳(3世紀末~4世紀初め)で、副葬された銅鏡の破片が大量に出土したという

 邪馬台国の女王・卑弥呼は中国・魏の皇帝から、魏の年号「正始(せいし)元年」に銅鏡を贈られたとされる。出土した破片には、その年号の銘文が入った鏡もあった。大和王権が邪馬台国と直接結びつく可能性も出てくるという。古代日本の国家の成り立ちを鏡がどう映し出すか、専門家の解明を楽しみに待つとしよう

 いまはまだ、謎が棲む古墳のなかの割れ鏡、である。

 1月9日付 編集手帳 読売新聞
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1.12.2010

悲惨な被爆体験を語り継ぐことは、人類の未来に届ける伝言でもある・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 〈おつかいの とちゅうで/迷ってしまった子どもみたい/とほうに くれている…〉。詩人、工藤直子さんの詩『あいたくて』の一節に、そうある

 何かをするために生まれてきたとは分かっていても、その「何か」――いわば天から授かった使命が何であるのか、分からぬままに人は生きている。お使いの途中で道に迷った子供の喩(たと)えは、誰にとっても実感だろう

 何をするために、何を伝えるために生まれてきたのか、炎と悲鳴と瓦礫(がれき)のなかで知った人もいる。しかも二度、何と苛酷(かこく)な運命のめぐり合わせだろう。山口彊さんは広島と長崎の両方で被爆した「二重被爆者」である

 長崎で造船会社の設計技師をしていた山口さんは、出張先の広島で被爆し、長崎に帰って再び被爆した体験をもつ。原爆の語り部として平和を訴えつづけた山口さんが93歳で亡くなった

 悲惨な被爆体験を語り継ぐことは、日本人が人類の未来に届ける伝言でもある。核を弄(もてあそ)ぶ国が現実にあるなかで、油断すれば迷子になる物騒な夜道がつづく。人生を筆にして、紙にして、その人が平和の祈りを綴(つづ)ったお使いのメモをなくすまい。

 1月7日付 編集手帳 読売新聞
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1.10.2010

身なり、顔かたち、お金、勤勉、純情、度胸、人望、このうちひとつでもあれば・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 もてる男の十か条が落語「いもりの黒焼」に出てくる。〈一見栄(いちみえ)、二(に)男(おとこ)、三金(さんかね)、四芸(しげい)、五精(ごせい)、六おぼこ、七ゼリフ、八(や)力(ぢから)、九(きゅう)肝(きも)、十(と)評(ひょう)判(ばん)〉。このうちひとつでもあれば、何とかなるらしい

 「見栄」は身なり、「男」は顔かたち、「精」は勤勉、「おぼこ」は純情、「肝」は度胸、「評判」は人望であるという。なるほど、身なりが真っ先にくるのね――と、ブラウンさんの溜(た)め息が聞こえてきそうである

 男性向け総合誌『GQ』英国版が、今年の「最もダサい男性」に英国のブラウン首相を選んだ。北朝鮮の金正日総書記(8位)も寄せつけぬ首位で、ネクタイの趣味が決め手になったという

 写真を見る限りはそうひどいとも思えないが、服装に一分のすきもない紳士の本場で、比較対象の水準が高いのはお気の毒である。さて、日本のあの人、この人のモテ具合はどうだろう

 ママから12億円の小遣いをもらって気づかない首相がいて、土地の購入に出所不明の4億円をポンと差し出す与党幹事長がいる。“一見栄”や“二男”はともかくも、“三金”だけは立派な色男コンビだろう。「立派な」は取り消す。

 1月6日付 編集手帳 読売新聞
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1.09.2010

「自発的微笑」お母さんのおなかの中で赤ちゃんが微笑している・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 花が咲く、の〈咲〉という字には「わらう」の意味がある。漢和辞典によれば、中国ではもっぱらこちらの意味で用いられたらしい。日本では「鳥鳴き、花笑う」という慣用句から、花のひらく意味に転用されたという

 テレビの正月番組を見ても、街を歩いても、〈咲〉の字が似合う笑顔には出くわさなかったが、きのう、年末年始の新聞を整理していて東京版に見つけた

 お母さんのおなかの中で赤ちゃんが微笑している。聖心女子大の川上清文教授を中心とする研究チームが、超音波診断装置を使って撮影に成功したという

 23週と1日目の胎児で、約3分間に計6回、1回あたり平均4・7秒の微笑を見せた。外的な刺激と無関係に表れる「自発的微笑」で、人の笑顔やおもちゃなどに反応する「社会的微笑」とは区別される。自発的微笑は新生児にもみられるが、胎児で確認されたのは初めてという

 生まれてくるのが待ち遠しくて口もとがついほころびた、写真はそんなふうにも見える。胎児が仏頂面をするような新年ではいけない。小さな一輪の花に、いいおみくじを引いたような気分を味わっている。

 1月5日付 編集手帳 読売新聞
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1.08.2010

「JAPANブランド」日本の成長に弾みをつけるカギがそこにある・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 漆の語源は、「うるわし(麗し)」とか「うるおし(潤し)」に由来するという。漆が塗られた酒器で屠蘇(とそ)を飲んだり、重箱のおせちで新年を祝うのは正月ならではだろう

 漆器は海外でかつて、「japan」と呼ばれた。その名の通り、日本を代表する伝統工芸品だ。国と商工会議所などによる「JAPANブランド」のキャンペーンが6年目を迎えた。漆器にあやかり、巧みな技を生かした新たなブランドを育てようとしている

 1月下旬のパリでの展示会には、漆器をインテリアに応用した福島県会津の「BITOWA」、京都の錦織クッションカバー、国産藺草(いぐさ)を使った福岡県の花ござ「KUSAWAKE」などが出展される。兵庫県淡路島の「香彩芳香」は、お香をアレンジした癒やしの香りだ

 アパレル業界でも、「tokyoeye」(トーキョーアイ)という商談会を上海などで開催している。デザイナーの才能を発掘し、可能性を秘めた日本発のファッションを世界の舞台に送り込んでいく

 人々の心をつかんだブランドは、海外販売につながるだろう。日本の成長に弾みをつけるカギがそこにある。

 1月4日付 編集手帳 読売新聞
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1.07.2010

政権交代の後で初めて迎えた年の初め、10年後はどう振り返るのか・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 西暦で2010年という区切りの良い年を迎えると、さて10年前はどうしていたかな、その10年前は…と思いが巡る。前の区切り良き年は、前年の大晦日(みそか)から夜通し待機して、コンピューターの混乱に備えていた

 結局、「2000年問題」で深刻なトラブルは起きず、最も大きな影響はと言えば、新聞記者同様に企業や官庁で大勢の人が警戒出勤したため、初詣でや行楽を近場で済ませる人が増えたことだった。今思えば笑い話である

 1990年を迎えた時は兜町が沸き立っていた。前年末の大納会で日経平均株価は史上最高値の3万8915円をつけた。それが大発会から奈落へ向かうような値下がりが始まる。あの正月が日本経済の絶頂だった、と、これも今だから分かることだ

 政権交代の後で初めて迎えた年の初めは、不安と期待が交錯している。この正月を10年後はどう振り返るのか、20年後は…と考えてしまう。不安は杞憂(きゆう)に終わるかもしれないし、期待は裏切られるかもしれない

 盃(さかずき)を傾けつつ、未来から原稿を送れたらと夢想する。見通しと曜日の位置は良くない新年、お屠蘇(とそ)気分は三が日まで。

 1月3日付 編集手帳 読売新聞
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1.06.2010

「ナミダクジ」つらい「辛」も、心弾む「幸」も、横棒1本の差でしかない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 年の瀬の商店街で親子連れとすれ違ったとき、小さな男の子が「ナミダクジ」と言った。手をひいたお母さんが「ア・ミ・ダ…」と笑った

 前後の会話を聞いていないので何の話題であったかは知らない。おさな子の唇に言い間違いから生まれ、たちまち消えた行きずりの一語が耳に残っている

 そういう言葉はないが、無理に漢字をあてれば「涙籤」だろう。真ん中を選んだつもりが、予期せぬ横棒1本に邪魔されて端っこにたどり着いたり、逆に、思いもよらぬ幸運にめぐり合ったり、人の世の浮き沈みは涙籤かも知れない

 あの人に出会わなければ、別の仕事を選んでいた。この町にいなかった。甘い酒の味を、あるいは苦い酒の味を、知らずにいた。誰しも過去を顧みれば、人生の曲がり角に「あの人」が立っている。年賀状という風習の成り立ちは不勉強で承知していないが、自分を今いる場所に連れてきてくれた“横棒たち”に再会する意味もあるのだろう

 つらい「辛」も、心弾む「幸」も、横棒1本の差でしかない。迎えた年が皆さんにとり、うれしい横棒の待つ感涙のナミダクジでありますように。

 1月1日付 編集手帳 読売新聞
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1.05.2010

元日は満月「てんでしのぎ」年が明ければ心機一転、また出航のときが訪れる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 「てんでしのぎ」というらしい。てんでバラバラの「てんで=各自」、他人の手を借りず、自力で苦難に対処することを指す。早坂暁さんの「夢千代日記」(大和書房)に教えられた

 海鳴りのとどろく山陰の温泉場を舞台に、テレビでは吉永小百合さんの演じた主人公の芸者・夢千代が語る。〈冬の日本海はきびしくて、沖に出る船は、みんなてんでしのぎです。他の船を助けることが出来ません〉

 仕事の悩みにせよ、私生活の迷いにせよ、肉親も親友も手取り足取りで舵(かじ)とりはしてくれない。人は誰もが「てんでしのぎ」の船だろう

 働きたくても働けない若者が大勢いて、残忍な事件には心を痛め、新型インフルには身を縮め、明るい出来事は遼君や原ジャパンぐらいしか浮かんでこない一年が暮れる。傷だらけの船体を曳航(えいこう)し、お国なまりと母の手料理が待つふるさとのドックに帰港した人もいるに違いない

 年が明ければ心機一転、また出航のときが訪れる。元日は満月という。月明かりの青い闇を海に、家々にともる窓の灯(ひ)をいさり火に見立て、今宵は除夜の鐘に祈ろう。失意の船に、海路の日和あれ。

 12月31日付 編集手帳 読売新聞
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1.04.2010

幾つかの言葉の“灯”が胸にチロチロ火影を揺らし、今年も暮れていく・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 “日本一短い手紙”今年の大賞作品から。亡き妻へ。〈時々お前の夢を見る。子供たちにも出てやってくれ〉(岩手県、岩渕正力)。小津映画を見終えたような、二十数字の魔法である

 オバマ米大統領の就任演説から。〈60年足らず前には地元のレストランで食事をさせてもらえなかったかも知れない父親をもつ男が今、最も神聖な宣誓をするためにあなた方の前に立つことができる〉。言葉のもつ力を改めて教えてくれた人である

 村上春樹さんの「エルサレム賞」受賞講演から。〈どんなに壁が正しく、どんなに卵が間違っていても、私は卵の側に立つ〉。体制を「壁」に、壁にぶつかって壊れる「卵」を個人にたとえている。テロリストのように卵の形をした爆弾もあるとはいえ、多くの人が胸を揺さぶられただろう

 96歳でシ去した森繁久弥さんの作詞・作曲「オホーツク舟歌」(「知床旅情」原曲)から。〈最果ての番屋に命の灯(ひ)チロチロ/トドの鳴く夜は愛(いと)し子が瞼(まぶた)に/誰に語らんこの寂しさ/ランプの火影(ほかげ)に海鳴りばかり…〉

 幾つかの言葉の“灯”が胸にチロチロ火影を揺らし、今年も暮れていく。

 12月30日付 編集手帳 読売新聞
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1.01.2010

「お客様へのお約束10か条」看板が替わっただけじゃない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 〈社会保険庁〉と〈不祥事〉をキーワードに小紙の記事データベースを検索してみる。過去5年でなんと200以上の記事がヒットした

 年金記録の杜撰(ずさん)な管理だけでなく、加入者情報の覗(のぞ)き見や漏洩(ろうえい)、不明朗な随意契約、年金解説書の監修料稼ぎ…などなど、噴出した問題は十指に余る。行政不信を決定的なものにした“晩年”の有り様は、政権交代を招いた要因とも言えるだろう。その社保庁もあと数日、今年が終わると同時に廃止される

 〈わかりやすい言葉でていねいにご説明します〉〈電話は3コール以内に出ます〉〈ご相談のお待たせ時間は30分以内を目指します〉…不祥事を数えた同じ指を折りながら一つ一つ読んでいくと、これは十指でちょうど収まる。社保庁に代わって、新年に産声を上げる日本年金機構の「お客様へのお約束10か条」だ

 こんな基本中の基本を改めて掲げますかね、と、民間企業に勤める方はたぶん笑ってしまうだろうが、新組織は社保庁とは違う、という意気込みの表れと今は評価しておくことにしたい

 看板が替わっただけじゃないの、と国民を失望させませぬように。

 12月27日付 編集手帳 読売新聞
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