〈大地震(おおない)に母に抱かれ転びたり記憶はじまる大正十二年〉。昨年編まれた平成万葉集にある88歳女性の一首。関東大震災の大正十二年を、平成七年と詠み替えることもできる。うなずいているのは今年成人式を迎えたくらいの若者だろう
うれしいことや楽しいこと、思い出に残る出来事はたくさんあったと思うのに、大震災の怖く、つらい体験ばかりが幼少期の記憶に刻みこまれている。そんな人も少なくないはずだ
兵庫県芦屋市の成人式に幼い女の子の写真を手にしたグループがいたと大阪本社版の記事にあった。同じ幼稚園に通った幼なじみたちが、阪神大震災で亡くなった同級生の遺影を携えて出席したという。5歳の園児の写真とそれを抱く女性の振り袖姿に時の流れを見る
「被害を記憶している最後の世代として、経験をしっかり伝えたい」。神戸市の成人式ではそんな言葉も聞こえたそうだ。大学のサークルなどで、震災の体験を聞き集めて防災に生かそうと活動する人もいる。怖さと寒さに震えていただろう幼子たちが、語り継ぎの主役となっていく
合掌しつつ、15回目の「あの日」を迎えた。
1月17日付 編集手帳 読売新聞
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