俳人、中村苑子さんに鏡を詠んだ句がある。〈貌(かお)が棲(す)む芒(すすき)の中の捨て鏡〉(第一句集『水妖詞館(すいようしかん)』より)。心に浮かんだ幻影にしても鬼気迫る情景で、ちょっと怖い
落語などでは、鏡に向かって一心に化粧する女房を亭主が「忍術使いみたいな目ェして」とからかうが、女性がときに激情を、ときに悲嘆をこめて見つめただろう鏡には、「貌が棲む」気配が漂っても不思議ではない
もしや、神秘のベールに包まれたあの女性の“貌”が、ちらりとでも棲んではいまいか――と、鏡の写真に目を凝らしてみる。大和王権初期の大王墓とされる奈良県桜井市の桜井茶臼山古墳(3世紀末~4世紀初め)で、副葬された銅鏡の破片が大量に出土したという
邪馬台国の女王・卑弥呼は中国・魏の皇帝から、魏の年号「正始(せいし)元年」に銅鏡を贈られたとされる。出土した破片には、その年号の銘文が入った鏡もあった。大和王権が邪馬台国と直接結びつく可能性も出てくるという。古代日本の国家の成り立ちを鏡がどう映し出すか、専門家の解明を楽しみに待つとしよう
いまはまだ、謎が棲む古墳のなかの割れ鏡、である。
1月9日付 編集手帳 読売新聞
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