漢字ひとつのなかにも詩想は浮かぶものらしい。〈涙 ながすときには/ひっそりと 戸をしめて/でも/ながした 涙のぶんだけ/戸のなかで/大きな人になって/戻っておいで〉
杉本深由起さんのちょっと風変わりな詩集『漢字のかんじ』(銀の鈴社)を読んでいて見つけた「涙」と題する詩である。なるほど、サンズイに戻ると書いて〈涙〉、〈戻〉のなかには〈戸〉と〈大〉が含まれている
実らぬ恋であったり、苦い悔恨であったり、人の世の薄情であったり、ひっそり部屋にこもり、ひとり涙した経験は誰にもあろう
人に限ったことでもない。かつて“日本の空”の代名詞であった企業が涙のときを迎えている。日本航空が東京地裁に会社更生法の適用を申請した。いわば倒産であり、一からの出直しになる。危機感の乏しい「親方日の丸」体質、小回りの利かない肥満体形、複雑な労使関係…と、閉めた扉のなかで改めなくてはいけないことは幾つもある
3年以内の再建を目指すという。贅肉(ぜいにく)をすっきり削(そ)ぎ落とし、安全で、安心で、流した涙のぶんだけ素敵(すてき)な笑顔の翼となって戻っておいで。
1月20日付 編集手帳 読売新聞
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