1.23.2010

平和で不思議な国、ニッポン、ありふれた悲劇に過ぎない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 「昔は指導者批判さえしなければ、身は安全だった。今は誰にコロされるか分からない」と、その内務省職員は言った。1年前、イラクのバグダッドを訪ねたときのこと

 フセイン政権時代に抑圧されたシーア派イスラム教徒と、新政権から排除されたスンニ派との抗争で、彼は弟と叔父をコロされた。全世帯の4割が家族のだれかを失ったと言われるバグダッドでは、それはありふれた悲劇に過ぎない

 今から20年前、東西冷戦が終わった。だが、平和が到来するとの期待は裏切られ、人類は幾多の紛争や虐サツを目にしなければならなかった。ユーゴスラビアの解体と内戦、ルワンダの大虐サツ、そして、イラク戦争後の宗派間抗争……

 その20年の間に育った日本の若者が先日、大人の仲間入りをした。「目立ちたい」などというわけの分からぬ理由で、成人式で暴れる新成人の映像が、今年も茶の間に流れた

 街の本屋には今、定年後の生き方を指南する本があふれている。世界には、ヒン困やエイズが原因で、平均寿命が40歳代の国がまだまだある。平和で不思議な国だな、ニッポンは。そう思わずにはいられない。

 1月18日付 編集手帳 読売新聞
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