7.09.2009

「私を総裁候補にするなら…」人気をねだって、心をなくしてはいけない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 芸人は食うものを食わなくても、着るものには金をかけろよ。無名時代のビートたけしさんにコメディアンの師匠、深見千三郎さんはそう教えたという

 〈腹減ってんのは見えねぇけど、どんな服着てるかってのはすぐにわかるぜ〉と。たけしさんの自伝エッセーにある。人気商売に欠かせない、見栄(みえ)を張ることの大切さを説いたのだろう

 世間を明るく照らす人気商売ということでは、政治家も喜劇人に似ている。ビンボウが外見に透けて、拍手(票)はもらえまい。「私を総裁候補にするなら…」とコケにされても、自民党は東国原英夫・宮崎県知事の衆院選出馬に執心している。見栄もなりふりも捨てた姿には、「そこまで、お困りか」と哀れを誘うものがある

 知事の特異な発信力は認めるにせよ、マイクの性能だけ高めても自民党の歌唱力が上達しなければ、聴き手の耳には大音量が逆に迷惑だろう。日本郵政問題や閣僚補充人事で露呈した“世論音痴”をマイクでごまかすのは誠実なやり方とは言えない

 金品をねだることを「無心」という。心を無(な)くす、と書く。人気をねだって、心をなくしてはいけない。

 7月9日付 編集手帳 読売新聞
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