7.18.2009

逃げおおせた犯人「時効」被害者の思い出に終わりはない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 詩歌の読み方は人によってさまざまだろう。「五行歌秀歌集」(市井社)で出合った一首がある。〈思い出に/コロされながら/生きてゆく/君といた日は/輝くナイフだ 桜井匠馬〉

 若い人には失恋の歌かも知れない。情熱の季節を通り過ぎた身には、子をナくした親の叫びを聴いている心地がする。犯罪被害者の遺族とは、思い出にコロされながら生きる人たちだろう

 犯人は、時効まで何年、あと何年…と「引き算」で生きる。遺族は、あの子がいれば今年は小学生、もう中学生…と、「足し算」で生きる。ゴールのある引き算と違い、足し算に終わりはない。遺族にとって時効は、逃げおおせた犯人に贈る理不尽な“ご褒美”と映ろう

 法務省の勉強会が、サツ人など重い罪の時効を廃止する方針を最終報告にまとめた。事件から日がたつほど物証や目撃証言は集めにくく、時効廃止が冤罪(えんざい)につながるのを懸念する声もあり、議論はまだ扉の入り口である

 肉親をコロされ、思い出にもコロされて生きる人が、時効の成立でもう一度コロされるのは見るに忍びない。扉の入り口から奥へ、現実へ、橋をわたす知恵が要る。

 7月18日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge