7.20.2009

170種を超えた「ボスコ」素材に対する深い愛情・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 板になったものなら判別はつくが、立ち木の区別は難しい。木工家の故・早川謙之輔さんが、そんな趣旨のことを書いていた(「木に学ぶ」新潮新書)

 話は続く。餅は餅屋に限るようで、当時の営林署員が早川さんにぼやいたという。「板になったものは分からない」。家具制作を中心に活動を続ける宮本茂紀さん(71)は、素材としての木に眼力を持つ“木工派”だろう

 「ボスコ」と名付けられた椅子(いす)のシリーズがある。約40年前から制作を始めた一連の作品は同一のデザインだが、材料の木の種類が異なる。イチョウなど聞き覚えのあるものから耳にしたこともないような外国産の樹木まで、170種を超えた

 色が違う。柾目(まさめ)と板目で表情が変わる。引き出された木の個性を通して、素材に対する宮本さんの深い愛情が見える。香りを知るためには、おがくずを口に含むのだそうだ

 ボスコとはイタリア語で森のことだが、最近入手した米国産のメタセコイアも、まもなくこの「森」の仲間に加わるという。緑陰が恋しい季節、外に持ち出した椅子に座り、本でも開いてみよう。そんな気にさせる森である。

 7月20日付 編集手帳 読売新聞
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