7.15.2009

時代の酒「マリッジ」原酒と原酒がなごみ、まろやかな味をつくる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 佐佐木幸綱さんに酒の歌がある。〈水で割るな薄めてはいかんウイスキーが時代の酒でありし日のこと〉。戦後の高度成長期か。グラスを手に明日また完全燃焼するべく、琥珀(こはく)色のガソリンをあおる企業戦士の横顔が浮かぶ

 いまはビールや発泡酒の花盛りだが、「時代の酒」とは呼びにくい。人いきれにむせ返るほど混沌(こんとん)とした活気にこそ似つかわしく、少子高齢化の世に「時代の酒」はないのかも知れない

 キリンとサントリーの経営統合交渉も、国内市場が少子高齢化で縮小し、海外市場で存在感を高める狙いと聞く。「時代の酒なき時代」ならではだろう

 どちらも「超」のつく優良企業である。うまくいっているときに変身を図るのが経営であるといわれる。苦し紛れの統合・合併を金融界などでさんざん見てきたあとだけに、ちょっと心の浮き立つ組み合わせではある

 別々に蒸留・熟成した2種類の原酒を混合し、樽(たる)に寝かせる工程をウイスキー造りでは「マリッジ」(結婚)と呼ぶ。原酒と原酒がなごみ、相手の個性をコロすことなく、まろやかな味をつくるという。縁談の成りゆきを見守るとしよう。

 7月15日付 編集手帳 読売新聞
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