7.01.2009

四股名「右肩上り」勝ち名乗りを一つあげるたび、番付も景気も

 昭和の20~30年代にかけて「ヒゲの伊之助」として親しまれた大相撲の立行司、第19代式守伊之助には、勝ち名乗りをあげようとして力士の名前を忘れ、「お前さァん」と呼んだ逸話が残っている

 さすがの伊之助さんでも、この四股名(しこな)は忘れないだろう。今月12日に初日を迎える名古屋場所の三段目西3枚目、吉野改め〈右肩上り〉(21歳、大嶽部屋)、「みぎかたあがり」と読む

 棒グラフや折れ線グラフが右に向かって伸びていく様子から、景気や業績を語って「右肩上がりの成長」などと用いられる。報知新聞の記事によれば、番付も景気も右肩上がりに、との願いをこめて師匠の大嶽親方(元関脇・貴闘力)が考えたという

 明治の昔にも珍名さんがいて、〈新刑法源七=三段目〉〈自動車早太郎=序二段〉のように、時代、世相を映した四股名が伝わっている。〈右肩上り〉も未曽有の経済危機に襲われなければ生まれなかった名前だろう

 勝ち名乗りを一つあげるたび、世の中の照度計が目盛り一つぶん明るさを増す――と信じれば、言葉に霊魂が宿る「言霊の幸(さき)わう国」に似合いの四股名ではある。

 7月1日付 編集手帳 読売新聞
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