被爆都市ヒロシマの復興の象徴・・・ 編集手帳 八葉蓮華
通路の古びた掲示板が、来場者に注意事項を告げている。グラウンドに降りない、物を投げ入れない…までは、どこの球場でも見かけるだろう。次が変わっている。「スタンドで焚火(たきび)をしない」◆2年ほど前、“赤ヘル”の聖地、広島市民球場を訪ねた折に見た。被爆都市ヒロシマの復興の象徴として完成したのは1957年(昭和32年)、昔は気の荒い観客がいたのかも知れない◆地獄絵の生々しく焼き付いた目でグラウンドを見つめた人もいただろう。平和の化身ともいえる競技に食い入る視線の凄(すご)みを、「焚火」の二文字にふと重ねたおぼえがある◆老朽化した球場は来春、閉鎖され、半世紀の歴史に幕を閉じる。カープはすでに本拠地での公式戦を終えたが、リーグの3位以内に残って日本シリーズに駒を進めることができれば観客席はもう一度、赤い波に揺れることになる。さて、どうだろう◆現代川柳に好きな一句がある。〈勝てカープ野球を知らぬわしじゃけど 大前タミエ〉。主力打者やエースが他球団や大リーグに移っていったなかで、選手たちはそういうファンにも支えられてきたに違いない。
10月4日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge