理解できぬ言葉が平気で使われている・・・ 編集手帳 八葉蓮華
「どうしました?」「先生、朝から膝(ひざ)がやめて、やめて…」。新潟の医師は患者、特にお年寄りとそんなやりとりをする。「病(や)める」は「痛む」の古風な言い方だが、新潟では何とも言えぬ違和感を指すことも多い◆微妙なニュアンスが分からないと意思疎通がうまくいかない。看護師向けの月刊誌ナーシング・トゥデイに「看護と方言」と題して、各地の医療現場での苦労話が語られていた◆症状に関する地域独特の表現をデータベースにする取り組みがあるという。方言で訴える痛みや苦しさをいち早く理解したいと協力する医師や看護師は、常に患者の気持ちを考えている人だろう◆問題は医療の“標準語”だ。「寛解」だの、「予後」だの、患者に理解できぬ言葉が平気で使われている。国立国語研究所がそれらをまとめて、分かりやすい言い換えを提案した。寛解は「症状が落ち着いて安定した状態」、予後は「今後の病状の医学的見通し」◆本来は国語研ではなく、医療界がやるべきことではないか。「やめる」を解する医師や看護師に尋ねれば、とうに実行している言い換え表現を教えてくれるだろう。
10月26日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge