10.17.2008

その時々は胸を揺さぶられ、怒り、涙しながら・・ 編集手帳 八葉蓮華

その時々は胸を揺さぶられ、怒り、涙しながら・・ 編集手帳 八葉蓮華
「うまくいかない画像サイズになった」と書くつもりが、パソコンの画面に現れた文章は、「馬食い家内が象サイズになった」。日本漢字能力検定協会が募った漢字変換ミスの年間賞に選ばれている◆教えれば何でも覚えるが、文脈の流れを理解しない。「記憶力抜群のバカ」と呼んだ人がいるが、文章を作成する機械にはそういう面がある。この原稿もパソコンで書いている◆パソコンに口があれば何と反論するだろう。「自分のお粗末な記憶力を棚に上げて…」と逆(さか)ねじを食うかも知れない。兵庫県加古川市の小学2年生、鵜瀬柚希(うのせゆずき)ちゃん(当時7歳)が自宅前で刺殺された事件から1年になることを、母親の悲痛な手記を読んで知った◆この1年、通り魔の「秋葉原」があり、放火の「大阪」があり、「加古川」の記憶を遠い過去であるかのように感じているわが身を省みて、逆ねじは耳に痛いものがある◆犯人はまだ捕まっていない。その時々は胸を揺さぶられ、怒り、涙しながら、めまぐるしい世相の流れに忘れていく。「感受性抜群のバカ」であってはならないと、新聞週間を迎えて自戒を新たにする。

10月17日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge