10.18.2008

駄洒落ひとつも言いにくい世の中・・・ 編集手帳 八葉蓮華

駄洒落ひとつも言いにくい世の中・・・ 編集手帳 八葉蓮華
豊臣秀吉が好んだ野菜とお酒は、なあに? 「セロリ新左衛門と千のリキュール」。志賀直哉作のなぞなぞという。作家、阿川弘之さんの評伝「志賀直哉」(岩波書店)に教えられた◆駄洒落(だじゃれ)好きであったと聞けば、仰ぎ見る文豪もいくらか身近に感じられるようである。言葉遊びは、なにかと窮屈な人間関係にひらいた息抜きの窓だろう◆駄洒落の技を競う「D1だじゃれグランプリ」の実行委員会が東京大会(11月24日)の出場者を募っているという記事を本紙の都内版で読んだ。暗い世相を駄洒落で照らそうという催しで、前回は大阪で開かれている◆1対1のトーナメント方式で、選手はお題にそって30秒以内に駄洒落を披露する。優勝者に贈られる魚の形をした紙粘土の金メダル、ならぬ「キンメダイ」を競って爆笑あり、苦笑あり、会場はにぎやかなことだろう◆以前は好きな駄洒落を問われると、寄席で聴いた落語のくすぐりを挙げていた。「お宅は火付け(しつけ)と懲役(教育)が行き届いて…」というのだが、悲惨な放火事件などを現実に目にすると、駄洒落ひとつも言いにくい世の中ではある。

10月18日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge