10.07.2008

病気と分かってもらえず・・・ 編集手帳 八葉蓮華

病気と分かってもらえず・・・ 編集手帳 八葉蓮華
体は丈夫そうなのに、いつもうつらうつらしていて働かない。民話の「ものぐさ太郎」である。太郎は「過眠症」(ナルコレプシー)だったかも知れないと、作家の色川武大(いろかわたけひろ)さんが随筆に書いている◆色川さん自身、この病気に苦しんだ。病気と分かってもらえず、怠け者と見られ、「太郎氏も弁明のしようもなくて辛(つら)かっただろう」と(中公文庫刊「いずれ我が身も」)◆日中も激しい眠気に襲われる。「暴力睡眠」と色川さんが呼ぶ発症の詳しい仕組みは分かっていない。国内には600人に1人、約20万人の患者がいると推定されている◆東京大学の研究チームが発症に関係する遺伝子を発見した。健康な人と患者の遺伝情報を解析し、そこに変異があると発症の危険性が1・8倍に高まる遺伝子を特定したもので、原因の解明や治療法の開発に結びつく成果という◆詩人の杉山平一さんに「眠り」という詩がある。〈眠りへ/エスカレーターを降りてゆく/たのしい地下室/おれだけの部屋〉。「たのしい部屋」であるべき睡眠を「くるしい部屋」として過ごしている人たちに、朗報の始まりとなればいい。

10月7日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge