今は擂り半の警戒域に入ったか・・ 編集手帳 八葉蓮華
江戸の昔、遠い火事には半鐘を一つ叩(たた)いた。これを「一ツ半(ばん)」といい、もっと近いと「二ツ半」…最後は半鐘に槌(つち)を入れてかき回し、「擂(す)り半」と呼んだ◆米国発の金融危機を火事に例えれば、サブプライム問題が浮上して一ツ半、リーマン破綻(はたん)で二ツ半、東京市場の株価が26年ぶりの安値をつけた今は擂り半の警戒域に入ったかも知れない◆衆院選の時期が一段と不透明になった。民意を問うて安定政権を作れば柔軟な危機対応が可能になり、誰しも血の騒ぐ選挙は景気対策にもなるという主張もないではないが、日本語はともかくも外国語には翻訳しにくい論理だろう◆「家庭内のゴタゴタを片づけるので、これにて失礼」と日本が火消しの国際バケツリレーから抜けて、日本より火傷(やけど)の重い米欧が「どうぞ、ごゆっくり」と声をかけてくれるはずもない◆解散の先送りは選挙での劣勢を恐れる自民党の「党利党略」だと、民主党は批判している。その下心が自民党内の一部にあったとしても、党利党略がたまたま“国利国略”“世界利世界略”にかなうときもある。「擂り半」を聴く耳に与党も野党もなかろう。
10月28日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge