10.08.2008

めでためでたが三つ重なりて・・・ 編集手帳 八葉蓮華

めでためでたが三つ重なりて・・・ 編集手帳 八葉蓮華
落語などでよく引かれる狂歌がある。〈めでためでたが三つ重なりて 下のめでたが重たかろ〉。たった一つでさえめでたいことが、こんなに三つも重なっていいのかしら、と浮き立つ心を詠んでいる◆寄席通いの好きな人ならば、昨夜はテレビのニュース速報を見て一首を口ずさんだことだろう。発表されたノーベル物理学賞の受賞者に南部陽一郎(87)、益川敏英(68)、小林誠(64)と日本人科学者3氏の名前が並んだ◆いずれも素粒子研究での功績が認められたもので、湯川秀樹、朝永振一郎両氏につづく南部氏は第2世代、益川、小林両氏は第3世代にあたる。日本の“お家芸”にまた一つ、ならぬ三つ、新たな明かりをともした◆過去の日本人受賞者で最高齢の南部氏には若き日、アインシュタインを相手に激論を交わした逸話も残る。物理現象を確率論で説く量子力学を「神様はサイコロを振らない」として否定する大学者に30分も食い下がったという。昔日のあれこれを思い、感慨もひとしおに違いない◆めでためでたが三つ重なりて、政局や景気で何かと沈みがちな日本人の心も、今朝は少し軽かろう。

10月8日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge