10.21.2008

世襲にもいろいろある・・・ 編集手帳 八葉蓮華

世襲にもいろいろある・・・ 編集手帳 八葉蓮華
江戸の昔、大きな商家では跡取りが生まれると、おもちゃ代わりに小判を与えたという。「いつのまにやら本物と偽物の見分けがつくんやそうでして、大きなったら偽金をつかまされない、商売人の知恵があったんやそうで…」◆「桂米朝コレクション」(筑摩書房)から落語「千両みかん」の一節である。米朝さんの長男、小米朝改め五代目桂米団治(よねだんじ)さん(49)も、本物の芸という小判に幼少から親しんだ人だろう◆落語の登場人物でいえば浮世の苦労を知らない若旦那(だんな)の風貌(ふうぼう)で、声もしぐさものびのびとして華がある。一昨日、都内で襲名披露公演を聴いた◆人間国宝の米朝さんも並んだ口上の席で、大名跡を継ぐいきさつを司会役の桂南光さんが「ええお父さんを持たはって…」と語るや、米団治さんがずっこけて客席が沸いた。七光りの雑音は芸を磨いて消せ、という兄弟子流の愛情表現であったろう◆小判を成長の肥やしにする人、猫に小判で終わる人、世襲にもいろいろある。米団治さんの陽気で愉(たの)しい「蔵丁稚(くらでっち)」を聴きながら、猫のほうに属する政治家の名前が一つ、二つ、浮かばなかったわけでもない。

10月21日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge