社会の余裕は大切にしたい・・・ 編集手帳 八葉蓮華
景気は“気”から、という。経済学のかなりの部分は心理学と重なる。景気の良し悪(あ)しも、株価の動きも、その社会の人々の心持ちと何らかの相関関係があっておかしくはない。こうした観点から証券系の研究所が度々、面白い分析をしてくれる◆先ごろ大和総研が「落とし物と株価の関係」を論じていた。警視庁に届いた拾得物の統計から、現金の額をグラフにすると、中長期的な株価の浮き沈みと概(おおむ)ね一致するらしい◆拾ったお金をきちんと届けるというのは人々の心理的余裕の表れであり、そうした余裕を生む社会環境では株価も上昇する、というのが研究所の分析だ。うなずけぬではない◆昨年は届いた金額が大きく増えたそうだ。ところが株価はそれほどまでは伸びなかった。そんな場合でも研究所は、株価はサブプライム問題など海外の要因で伸び悩んだが日本人の心理的余裕は底堅かった、と前向きに見る◆もちろん株価がどうあろうと、落とし物はきちんと届けて当然だ。混乱が続く相場のニュースに振り回されぬためにも、社会の余裕は大切にしたい。今年の落とし物統計はさて、どうなりますか。
11月2日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge