人の違うを怒らざれ。人みな心あり・・・ 編集手帳 八葉蓮華
聖徳太子が定めたという十七条憲法の第十条に、〈人の違うを怒らざれ。人みな心あり〉とある。人がそれぞれ違っているのを咎(とが)めるなと。時代、宗教、国境を超えた普遍の戒めだろう◆日本書紀には、聖徳太子が仏教の経典を「悉(ことごと)に達(さと)りたまひぬ」(すべて悟得された)とある。漢字の表記などから国文学者の中西進さんはある対談のなかで、太子が釈迦(悉達太(シッダール)子(タ))の生まれ変わりだという考えがあったのだろう、と推測している◆インドは紙幣に17もの異なった言語で額面などを記載しているように、多言語、多民族の国家で知られる。「共生」の教えともいうべき胸にしみ入る条文の遠い淵源(えんげん)をふと、お釈迦様の国に求めてみたい心持ちになる◆そのインド西部の都市ムンバイ(旧ボンベイ)でホテルなどの公共施設を狙った同時テロが起き、日本人の会社員1人を含む100人以上が死亡した。いかなる組織が、いかなる目的で犯行に及んだにせよ、市民や外国からの訪問客に何の罪がある◆人の違うを怒らざれ。人みな心あり、命あり…。テロリストに語るむなしさを感じつつ、叫ばずにはいられない。
11月28日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge